コラム
Column

~リスキリングでキャリアや働き方はどう変わるのか~
社労士が解説。リスキリングに利用できる制度と、これからの会社に求められる環境づくり

<COCORO社会保険労務士法人 特定社会保険労務士 齋藤直登さん>

岸田内閣が掲げる「新しい資本主義」の一環として、5年間で1兆円の予算を投じると発表された「リスキリング」。将来的なIT人材不足が予測される中経営者にとっても、働く人にとっても、注目度が高まっています。

本コラムでは、リスキリングの概要、働く人にとってのメリット、補助金がもらえる制度など、全5回に渡ってお伝えします。第5回は、COCORO社会保険労務士法人の社労士、齋藤直登さんにインタビュー。企業が利用できる制度についてお話を伺いました。

 

最大1億円の「人材開発支援助成金」

長野県の企業がリスキリングに利用可能な、施策や制度について教えてください。

厚生労働省が管轄する「人材開発支援助成金」が利用可能です。複数のコースに分かれていますが、該当するのは「事業展開等リスキリング支援コース」「人への投資促進コース」の2つです。

そもそも人材開発支援助成金とは、従業員の教育訓練の費用を負担してもらえる制度のことです。2022年12月、「リスキリング」という言葉が含まれた新しいコースが新設されました。通常では考えられない額の予算が確保されており、1事業所あたり年間で最大1億円の受給が可能です。

申請要件として「新たな分野で必要となる専門的な知識及び技能の習得をさせるための訓練」「企業内のデジタル・デジタルトランスフォーメーション(DX)化やグリーン・カーボンニュートラル化を進めるための訓練」 など制限はありますが、非常に大きな金額を助成してもらえることが特徴的です。

参考:人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)のご案内(詳細版):厚生労働省

関連して、リスキリングとは少しズレますが、アルバイトやパートの方に正社員になってもらうための研修や研修に使用する 機器の導入などの、生産性向上のための取り組みが助成対象になることも多いです。

 

当たり前のことを「ちゃんとやる」ことで、スムーズな助成金申請を

助成金を利用する際、注意すべきことがあれば教えてください。

大前提として、当たり前のことを「ちゃんとやっていてほしい」ということです。たとえば、従業員との雇用契約、勤怠管理、それに基づいた給与計算など、会社を経営するうえで基本的な業務です。当たり前に聞こえるかもしれませんが、その基本が守られていなければ申請はできません。

そのうえで、実際にリスキリングを進めるうえでは「計画通りに実施する」ことが注意点です。リスキリングに関する助成金申請では、研修や講習を実施する前に計画届の提出があります。その後、予定していたプログラムが計画通りに実行された場合に限って研修費の一部が戻ってくる、という仕組みになっています。

「実施日が講師の都合でズレてしまった」「会場が抑えられずに変更になった」「研修対象の社員が退職してしまった」など、実際はさまざまな問題が起こります。研修のタイミング、長さ、対象となる社員など全て計画通りに実行する必要があり、少しでも変更がある場合は研修を実施する前に届出が必要です。研修後に「実は変更がありました」となった場合、その研修への助成金が0になることもあります。

研修に参加する社員の勤怠管理にはとくに気をつけましょう。終日研修だからとタイムカードの打刻を忘れてしてしまうと、研修に参加していたことを証明できなくなってしまうため注意が必要です。

計画からの変更をなるべく防ぐためには、研修期間は短く区切ることをおすすめします。とくに長期にわたるカリキュラムの場合、研修対象の社員が退職してしまうリスクも高まります。最低研修時間をクリアする必要はありますが、それさえ守れればなるべく短期間でやりきってしまう方がリスクを抑えられると思います。

 

仕事上の付き合いを越え、社員の人生を一緒に考える関係に

個人のリスキリングが進むと離職リスクが高まる、という見方もあります。企業側にはどんな対策が考えられるでしょうか?

社員のスキルアップを本当の意味で認めることが重要だと思います。

これまで社労士として多くの退職者を見てきましたが、離職理由の根底には人間関係がある場合が多いです。中でも 、「認められている気がしない」という感覚を持っているケースは多く、これを避ける には「あなたのおかげで助かっている」ということを伝え続けることが大事だと思います。

ただ口で感謝を伝えるだけでなく、実際の行動で示すことも重要です。とくに社員から新しい提案をされたときは、会社の方向性と少しでも親和性がありそうな場合、実施までのサポートをしてもらえればと思います。場合によっては、新規事業の立ち上げや子会社の創設などダイナミックな動きも求められます。

また、福利厚生として社員の学習を奨励する制度を会社のなかに整えることも有効だと思います。

たとえば、私が今勤めているCOCORO社会保険労務士法人の場合、スタッフが自発的に受講する研修や資格試験の費用を3万円まで補助してくれます。受講する研修は直接的に仕事に関わりのないものでも大丈夫です。実際に、子育てセミナーやアンガーマネジメントなど、専門分野とは別の講習を受けに行ったスタッフもいます。研修へ参加するための有休取得も可能です。

自発的な学習をサポートしてくれる制度があることで、勉強をする習慣が身につきますし、スタッフに「ここなら安心して働きながら成長ができる」と思ってもらえます。福利厚生を整えるために利用可能な助成金もありますので、うまく利用してください。

リスキリングが当たり前になる時代、会社は社員の仕事ぶりだけでなく、人生についても見据えながら関係性を構築することが求められるのだと思います。社員が学ぶ雰囲気を社内に醸成することは、結果的には会社の成長にもつながりますし、離職率を抑えることにもつながるはずです。離職を恐れず、成長を後押しする環境を整えてもらえればと思います。

 

 

齋藤 直登

長野市出身
COCORO社会保険労務士法人
特定社会保険労務士

ものづくりが好きで長野工業高等専門学校を卒業してから中野市の製造業の会社に就職して数年、妻の一言がきっかけで社会保険労務士資格を取得した後、今の事務所とは別の社労士法人に転職。

正直なめていて、実務を何にも知らなかったため客先で何もできず、先輩には怒られさんざんに打ちのめされ、3カ月で逃げ出すように退職。その後、建設会社(空調・給排水設備)の総務部へ。社内の労務に関わる課題を一つ一つクリアしていくうちに、もっと多くの会社の課題に関わりたいと思うようになり、もう一度社労士に挑戦することに。

現在、COCORO社会保険労務士法人の勤務社労士。

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