コラム
Column

~リスキリングでキャリアや働き方はどう変わるのか~
リスキリング格差をどう埋める?これからの経営で求められる「実績のない」人材を活かすスキル

<株式会社Waris(ワリス) リスキリング事業部 ディレクター 藤見慶子 さん>

岸田内閣が掲げる「新しい資本主義」の一環として、5年間で1兆円の予算を投じると発表された「リスキリング」。将来的なIT人材不足が予測されるなか、経営者にとっても、働く人にとっても、注目度が高まっています。

本コラムでは、リスキリングの概要、働く人にとってのメリット、補助金がもらえる制度など、全5回に渡ってお伝えします。第3回は、女性のためのキャリアシフトプラットフォームを運営する株式会社Waris(ワリス)のリスキリング事業部 ディレクター、藤見慶子さんにインタビューです。

同社は2022年9月、女性のリスキリングに関する就業形態別調査をおこない「女性のリスキリング白書2022」を発表しました。今回は、その調査結果の内容や、見えてきたリスキリングの課題、解決のためのアプローチについてお伝えします。

 

正規雇用と非正規雇用との間に生まれるリスキリング格差

まずは、日本全体のリスキリングの現状について、調査結果から見えてきた傾向を教えてください。

いろいろな見方ができますが、調査結果の複数のデータから 、リスキリングが進んでいるところと、そうでないところとの間に格差が広がっていることが分かっています。

リスキリングが大きく進んでいるのは、大企業から正規雇用の方々に対してです。 さまざまなオンラインコンテンツを活用しながら、自社メンバーへ新しい知識をつけさせたり、そこで得た知識を活かせる環境をつくったりと積極的に取り組んでいる企業が多いです。

一方で、非正規雇用の方々や離職中の人へのサポートは手薄な傾向があります。そもそも、「リスキリング」という言葉自体への認知度も低くなっています。



(出典:株式会社Waris./女性のリスキリング白書2022 ~就業形態別のリスキリングに関する調査レポート~)

キャリアのブランクが長くなると、自分自身がやりたいこと、向いていることが見えづらくなるものです。そんな状況では、いくら世間的にリスキリングが推奨されていても、「何をすればいいかわからない」と迷う方が多いのかなと思います。

中小企業のリスキリングにはどんな傾向があるのでしょうか?

会社によってリスキリングの 取り組み状況にはばらつきがあり 、良くも悪くも経営者の意識次第だと感じます。

人材活性化や持続的な企業づくりの観点で危機感を持ち、社員向けにリスキングプログラムを整備している会社もあれば、目の前の業務で手一杯で、そこまで手が回っていない会社も多いです。とくに人手不足の問題を抱えている会社にとっては、リスキリングにまで手が出せない、というのが本音ではないでしょうか。

これからの人事には、リスキリング人材が活躍するための設計が求められる

レポートでは「回答者のリスキリングに関する課題感」もまとめられています。改めてご説明いただいても良いでしょうか。


(出典:株式会社Waris./女性のリスキリング白書2022 ~就業形態別のリスキリングに関する調査レポート~)

詳細はレポートを見てもらえればと思いますが、とくに大きな課題だと感じたのは「学んだことを仕事獲得にどう活かすか? 」という問題です。

私は普段の業務を通して 、リスキリングに対して意欲的な方は増えていると感じています。ただ、とくに日本企業の場合、実務経験を重視する企業が多く、いくらスキルを持っている人でも、経験がなければ受け入れない傾向があります。そんな状況が続くようでは、各人のリスキリングに対する意欲は下がり、労働移動も活発に起こらないのではと懸念しています。

解決するためのアプローチを教えてください。

人事やマネジメント担当者に今までとはまた別のスキルを身につけてもらうことだと思っています。

これまでの人事担当者は、目標人数を採用して、既存の社内研修を滞りなく回すことに注力している方が多かったのではないでしょうか。リスキリング人材を採用する 場合は、各人の適正、バックグラウンド、リスキリングで獲得した知識やスキルを掛け合わせて、求職者にどう活躍してもらうのかを描く能力が必要になると思います。また、必要であれば活躍をしてもらうための仕組みづくりや、現場のマネジメント層との調整をする能力も求められるでしょう。

例えばリスキリングでプログラミングスキルを身につけた方について、実務経験のなさが問題であれば、その方に合った研修やOJTの体制を検討する必要があります。もしくは、バックグラウンドが営業事務だったとしたらそこで培ったコミュニケーションスキルを活かし、プロジェクトのアシスタントやカスタマーサクセス(顧客とエンジニアの橋渡し役)からステップアップ していくことを提案するなど 、一歩踏み込んで考えられる人事のプロが、人的資本経営のためには必要になると思います。

50歳代 からのリスキリングで、大手IT企業の正社員に

リスキリングの成功事例を教えてください。

たくさんありますが、50歳代半ば の女性がIT企業の正社員になった話が分かりやすいと思います。

その女性は新卒で入社した会社に1年間勤めた後、出産、育児に専念するため退職し、その後は出産・育児に専念し、ひと段落してからは10年以上非正規雇用として働いていました。もう一度働きたいと考え、株式会社WarisでおこなうDX人材育成リスキリングプログラムに参加し、資格を取得しました。 さらに、プログラム受講者とIT企業とを繋ぐ「ミートアップイベント 」にも参加。その結果、大手IT企業にコンサルタントとして採用されることが決まったのです。

採用のポイントとしては、その女性が非正規雇用としてコールセンターの顧客対応を経験しており、傾聴力や提案力があったことです。元の経験にリスキリングで得た知識が加わり、顧客に対して 適切な提案や導入支援を行ってくれるのでは、と感じたとのことでした。

50歳代半 ばという年齢についてもまったく問題ありませんでした。むしろ、2〜3年かけて教育をしてもさまざまな事情で退職や転職されることも多い若手より安定感を感じる、とポジティブな印象でした。採用企業にとって、その女性の「最後のキャリアを築く」という覚悟や熱量は、内定の後押しになったそうです。

まずは、リスキリングについて知ってもらうことから

地方からリスキリングを推進するうえで、重要なポイントを教えてください。

地元企業と多くの接点を持つ、自治体や商工会議所のような組織が、率先して推進することが重要だと感じます。とくに必要なのは、リスキリングが必要になる背景や世の中の変化について、しっかりとインプットすることです。

繰り返しですが、とくに中小企業の場合はどうしても目の前の仕事をこなすことで目いっぱいになりがちです 。そんな企業の方々に動いてもらうには、今後世の中がどう変わって、なぜリスキリングが必要か、からしっかりお伝えするところが大事だと思います。

とくに我々がメインでサポートしている女性のなかには「地元では働きやすい職場が少ないので、仕方なく地元を離れる決断をしました」と語る方も多くいます。地方企業には働き方のフレキシビリティを確保し、子育てをしながらでも働ける、出産を経て戻ってきやすい、といった働きやすい環境づくりが求められています。

リスキリングに対するインプットと合わせて、企業自体が積極的に変わる姿を見せられると、さらに良いと思います。社員教育を始める、新しい業務を作る、募集要項を変えてみるなど、できることから具体的なアクションを始めると良いでしょう。

 

藤見 慶子

人材業界に10年以上従事し、非正規の方の正規雇用に向けた支援 やフリーランスの方の正規雇用に向けた支援等、延べ500人以上の女性キャリア支援に携わりながら、女性のエンパワーメントに取り組む。2016年より家庭の事情などによりキャリアブランクができた女性たちの正規雇用促進を目的としたインターンシップやキャリア開発プログラムを立ち上げる。2018年からはリスキリング(学び直し)~就労支援まで一気通貫型のプログラムをスタートさせ、日本女性のL字カーブ解消(正規雇用率アップ)、男女賃金格差解消、女性活躍・女性管理職比率向上といった社会課題解決にリスキリング分野における専門家として取り組む。

https://waris.co.jp/

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